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「さむい」にまつわる話

今週のお題「さむい」

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今週のお題はさむいだそうです。
なかなか引っかかりのないお題ですね。
先週のお題「今だから言えること」がだとしたら「さむい」は玉こんにゃくくらい引っかかるところがないです。
 
それでも私は、はてなブログ新参者ですので、なるべくならお題は書こうと思ってます。
それで今朝から頭の中の記憶をほじくり返してキーワード「さむい」に繋がるエピソードがあるか考えました。
おかげさまで海馬のあたりが発熱してます。
わぁ、これで寒くないね!
って、ばか!
 
 
初めてやりましたけど、ノリツッコミとはむずかしいものですね。
2度とやりません、すみません。
 
では、そんなわけで今日は私の「さむい」にまつわる話を書きます。
 
私は高校1年でアルバイトを始めてから結婚するまで色々なアルバイトをしていました。
いっとう長く働いたのは歯科医院での助手でした。
 
その歯科医院は院長と奥さん(奥さんも歯科医)の2人医師体制のこじんまりした医院で、助手は私1人でした。
(時々助手や衛生士にアルバイトを雇うもかなり仕事がキツくて数ヶ月で辞めてしまうので、基本は3人で切り盛りをしていました)
 
先生(院長先生のことは院長と呼んでいたので以下奥さん先生のことは先生と略します)は、私より7つほど年上で、代々お医者さんの家庭で育ったお嬢様で、顔も女優の木村多江にそっくりな美人でした。
まさに「才色兼備」を地でいく人です。なのに、おごったところが全くなく、気さくで優しい人でした。
 
しかし、私はそれまで医師という職業の人と触れ合った事はありません。
自分とは違う世界の人種だとすら思っていました。
それに「綺麗な花にはトゲがある」と言いますし、一見優しそうに見えても、先生に対してはじめは多少の警戒心を持ちつつ働き始めました。
 
 
面接の時に、院長は私に言いました。
「うちは小さい歯科医院なのでたくさん人は雇えません。おそらく助手も受付もやってもらうことになると思います。受付とは医院の顔です。医師の技術がいくら良くても受付が愛想の悪い病院を患者さんは選びません。だから受付をやるときはとにかく人当たり良く好印象を持たれるように努めて欲しい。」と。
 
私はまだまだ子供でしたので、笑顔を振りまく以外にどうすれば「人当たりよく」になるのか分からず、そこにも不安がありました。
そして仕事を始めてからその旨を院長に伝えると「はじめのうちは先生(奥さんのこと)の真似事でいいよ。先生はそういうのが上手だから、よく見て覚えてね。」
と言われました。
 
以後私は目を皿のように、耳をダンボにして先生の声かけを観察していきました。
 
先生は確かに患者さんを見送る時「お大事に」の後、一言付け加えるのに実にバリエーション豊かに言葉をかけていました。
 
雨の日なら「滑らないように気を付けてお帰り下さいね」とか、夜ならば「暗いから気を付けて下さいね」とか。
 
 
そういうアドリブ的な言い回しは、客商売を長くやっていくと自然と身につくものなのですが、なにぶん私はまだ子供だったので先生のようにその場その場で気の利いた事がスラッと言えませんでした。
いつも先生の声かけに「そういう言い方もあるのだなぁ」と学び、自分も真似ていくようにと心がけていました。
 
 
そんな中、仕事を初めて2ヶ月ほど経った頃でしょうか。
私と先生の間に徐々に師弟関係が築かれつつあった最初の冬のこと。
先生と受付をしていると患者さんを見送りながら先生は菩薩のような微笑みで言いました。
 
お大事にどうぞー。寒いから気を付けて帰って下さいね
 
はて…
何か引っかかる…
 
私は思いました。
 
私は昔からなんとなく人の発した言葉の意味を深く考えてしまうところがあります。
母親が少し偏屈で、ヘタに聞きかじった言葉を見よう見まねで適当に使おうものなら「意味も知らない言葉は使うな!」と広辞苑をぶん投げてくるような人なので自分の知らない慣用句は意味を調べてからでないと使いたくないですし、日常会話においても「なんとなく」で言葉を使いたくないのです。
 
それで、ふと先ほど先生の言った言葉を思い返すと、ある疑問が浮かんだので、先生に聞きました。
 
先生、『寒いから気を付けて』とは、一体どう気を付ければいいんでしょうか…?
 
先生はキョトンとしていました。
 
私は質問の意味が伝わらなかったかな、と思い、続けて
「これが『暑いから気を付けて』なら分かるんです。熱中症とか脱水とか、暑さにより起こりうる害に対しての注意喚起ですもんね。
でも『寒さ』はどうにも気を付けようがなくないですか?
と言いました。
 
先生は「うーん…」と黒目だけを上にして考えています。
 
私は「ハッ」としました。
 
 

またやってしまった…。

 
そうなのです。
私はいつもこのように自分の言ったことで相手を困らせてしまうです。
過去にも何度となく私に対する「コイツめんどくせーなー」という顔を見てきました。
『私と喋ると相手は疲れる。
それが、私が20歳にして知っていた「自分訓」でした。
 
その為、いつもなるべく他人と接する時は発言には気を付けて抑えていたのですが、やはり仕事をすると人間は素が出てしまうのでしょうか、つい思ったことをそのまま先生にぶつけてしまったのでした。
 
 
しまった…。
先生は今きっと頭の中で「面倒くさい子を雇っちゃったなー」と、思ってるに違いない…
 
こんな、しょっぱなから扱いにくい相手だと思われるような事を言ってしまって、私のバカバカバカ!
 
私がそう思っていると、先生は次の瞬間
ボクサーのように両手を縮めて体を左右にシュッシュと動かしました。
 
私は「えっ?」となりました。
 
 
すると先生は目を輝かせ
「確かに!!寒さはよけられないもんね!!」
と嬉々として言いました。
 

先生…!!

 
この時の感動は今も覚えています。
私は、ちゃんと面倒くさがらずに私と対話してくれる大人に会ったのは初めてでした。
 
しかも先生は続けて
「そうだよね!『寒いから風邪に気を付けて』なら桜島さん納得できるんでしょ!?でも『寒いから気を付けて』じゃ、言われた方は『何に気を付けるんだよ』って思うよね!そうだよ、そうだよ!うわーわたし考えたことも無かった〜!」
 
と嬉々として言いました。
私は「そうですそうですその通りです!!」と2人でキャッキャと喜びました。
 
私はこの時初めて「何があってもオラこの先生について行こう」と思いました。
先生はそれから「寒いから気を付けて下さいね」を封印しました。
そんなわけで私は一気に先生への警戒心が解けて先生とは非常に馬が合うことが判明しました。
 
 
先生はその後もずっと優しく、私が言うことにいつもちゃんと耳を傾けて下さいました。
私は仕事を始めた時は歯科の知識も全くないずぶの素人で、高卒でフリーターをしていて頭も顔もさして良くなく、普通の家庭で育った人間です。
立場的にも雇い主である先生からしてみれば「下」に見られても当然なのに先生は私に対して全くそんな扱いはせず人として尊重して下さり、辞めるまでの7年間とても可愛がってもらいました。
 
 
先生のおかげで私は人と接する時、自分を必要以上に抑えることはなく会話出来るようになったので本当に感謝しています。
 
今でも時々美容室とか整体などで見送られる時に「寒いから気を付けて下さいね〜」という声を耳にすることがありますが、その度にこの時のことを思い出します。
 
そして、先生がシュッシュと「寒さをよけるジェスチャー」をした姿を思い出してクスっと笑い、寒くてもなんとなく心が温かくなるのです。
 
 
うわーいい話!
ダラダラと長いばかりであんまり面白くは無かったかもしれませんが、なにぶんお題が玉こんにゃくなので、今回は勘弁して下さい。
読んでいただいた方はありがとうございました。
ではまた次のお話でお会いしましょう。