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限りなく透明に近いふつう

やさしい鬼です お菓子もあります お茶も沸かしてございます

奇妙なカップルになりたくない

 

先日、夫と小旅行に行ってきました。

行先はどことは言いませんが日本を代表する温泉街です。

夕食付きのホテルではなかったので、夜「何食べようか」とネットで調べてたら、近くに良い回転寿司屋さんがあるっぽいのでそこへ行くことにしました。

時刻は夜の8時ごろ、人気店らしく5組ほどの客が入口のベンチで待っていました。

「へぇ、夕食時を外してきたのに待ってるもんだなぁ」と思いながら店内を見ると、なるほど人気の理由も分かる気がします。

そのお店は回転寿司とは言いつつも、「みょうにお洒落」なんです。

どういうことかというと、まずふつうの回転寿司屋というものは酢飯のにおいがたちこめ、蛍光灯の煌々とした明るさのもとレーンに乗った皿が回っているものですよね。

家庭用流しそうめんマシンを見るとなぜか「ハハハ」と笑えるのと同じ道理で、私は「食べ物が回る」という事態が、どこか間抜けに見えます。だからその時点で回転寿司屋という空間の「おしゃれ指数」は「おもしろ指数」に負けてます。

さらに、ふつうの回転寿司屋で『活き〆カンパチ』を注文すると、ねじりハチマキ姿の板さんに「ぃよっ!カンパチいっちょぉーう!」「カンパチ入りゃああーす!」と必要以上の雄叫びを上げられ、こっちは「あの…食べるネタをいちいちバラさないで…なんか恥ずかしいから…」みたいになります。その気恥ずかしさは、いちいち同行者と何の会話をしてたか忘れさせ、まともな話なんかゆっくりできたもんじゃないです。

おそらくふつうの回転寿司屋がプロデュースしたいのは「お祭りわっしょい空間」なので、その雄叫びもしかるべき演出なわけで、ようするに店側だって店内空間のおしゃれ指数なんかさほど気にしてないってことです。

もちろんそれでいい。客だってほとんどの人は回転寿司屋におしゃれ感は求めてないのだから。

簡単に言うと「イタリアンレストランでプロポーズしようとする人は沢山いるだろうが、回転寿司屋でプロポーズしようという人はほとんどいない」ってことですかね。

回転寿司屋というのはそういう場所だと私は思うし、世の中の人もたいていそう位置付けしてるものだと思います。

が。

その店は違った。

まず外観がかなりオシャレで、こじんまりとしたカフェにしか見えませんでした。(あまりにカフェっぽいので、ナビが「目的地周辺です」と言うのに私らは「嘘つけ、カフェしかないじゃん」と一回通り過ぎてしまったほど。回転寿司屋の記号である、のぼり旗も無い。)

店内も茶色い木製の壁にかかった黒板にチョークで書かれた手書きメニュー、灯りはすべて間接照明で、姫野カオルコ氏の言葉を借りて言うと「『敵機の襲来を恐れているのか?』というくらい暗い。」だったし、店員はねじりハチマキなどせずに、ラーメンズの衣装のごとく上下黒のシャツとズボンに黒のギャルソンエプロンをしていました。

これだけでも「おっしゃれー」なんですが、さらに決定的なのは、レーンが止まっているんです。食べ物が回ってないから空間が間抜けになってない!

「じゃあなんであるんだ?」という疑問は浮かびましたが、とにかく真ん中にあるU字型のレーンは回っておらず、客席から見える場所には板前もおらず、注文は紙に書いてラーメンズに渡し、ラーメンズがそっと席まで持ってきて給仕してくれるスタイルだっったのです。もちろんラーメンズは何を注文しても雄叫びを上げない。助かる!

私は「回転寿司屋はおしゃれじゃない」という常識を覆す、こんなムーディでお洒落な回転寿司屋(正確には回転してないんだけど)の店は初めてだったので、「ほぅ」と感心しました。冒頭に書いた「人気の理由に納得した」というのはこういうことです。

おそらくその店は、地元でも「ムーディな回転寿司屋」で評判なのでしょう、時間帯のせいもあったとは思いますが、客層がファミリーよりデートカップルのほうが割合が多かったように思います。

そこで私は1組の奇妙なカップルの姿を見ました。

彼らは私達の前に待っていて、なんとなく漏れ聞こえる会話を聞く限りどうもまだ本格的に交際している仲ではない様子でした。

女性は会話中に「単位」や「ゼミ」といった単語を出すことから女子大生かと思われます。

茶色くゆるふわな髪を後ろでくるりんぱして金色のバレッタで留めて、白のニットとプリーツスカートを着てて、ギャルでもなく地味でもなく、一言で形容するなら「MARYが見れなくなっちゃってさみし~(>_<)」みたいな子です。

男性のほうは彼女に比べずいぶんと年上に見えました。

痩身で背が高い方だったのでパッと見は、べつに「おじさんと若い女の子」には見えなかったものの、頭髪がやや薄いのと肌の感じや服装から判断して私より少し年上、おそらく39、40歳かと思いました。アンガールズ田中に少しだけ似てました。

年齢だけで言ったら「おじさんと若い子」のカップルです。

2人の会話はあまり弾んでおらず、女の子(以下メリーちゃんと称す)がはじめ大学の勉強についての話をした後は、さして実のある話はしていませんでした。

時々沈黙に耐え切れないメリーちゃんが「雨降らなくてよかったですね」とか「今日、外あったかいですね」とか言うものの、田中は「そうだね」とか「昨日は寒かったけどね」とか返事をして終わり。

でも田中はかなり頻繁にメリーちゃんの横顔をチラ見することから判断して「好きだけどうまく話せない」的なやつで、2人で会うのはまだ初回か二回目くらいといった所でしょうか。

で、この2人のどこが奇妙だったかと言うと、店に入ってからのことです。

私も終始彼らに注目していたわけではないので、カウンターの隣同士になったものの、初めは特に彼らのことを気にも留めてませんでした。

しかし食事中盤、ラーメンズが私の隣のメリーちゃんの前に給仕した大トロ4カンの見た目のインパクトが強すぎて、思わず私は彼らのカウンターに注視してしまいました。

そしてその時、彼らの前には「高級ランクの皿だけが積み上がっている」ということに気が付いたのです。「わ、」と思いました。

そのお店はネタのお値段が130円、200円、260円、300円、500円の5段階設定だったのですが、メリーちゃんと田中の前には260円以上の皿しかなかったんです。

こういう時心の中で「わ、」となりますよね、え、なりません?私はなります。「わ、」て。

でも別にそこが奇妙要素なんではなくて、私が「あれ?」と思ったのは彼らの注文の決め方なんです。

その店のメニューはこんな感じだったのですが

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大トロをもぐもぐしているメリーちゃんの横で田中が「次なんにする?」と見せているメニューは②と③のページだけなんです。安い130円200円のネタが載ってる①のページは折り返して裏にしてて見えない状態なんですね。

その段階では私はその事を別に何も思わなかったのですが、メリーちゃんがメニューを自分で観たそうに「んー」と手を伸ばすと、なぜか田中はメニューを手放さないんですよ。

その時、私は初めて「あれ?」と思いました。

まるで田中が「ここから選んで」と無言の圧力をかけている感じがしたんです。

メリーちゃんもそれを感じるのか、まだ我が出せる関係性ではないのか、出した手をひっこめて高級ネタの中から「じゃあ、ヒラメを…」と言って、田中は嬉しそうに「ヒラメね」と注文用紙に書いていました。

この光景、一度だけなら気にならなかったのですが、その後何度もあって、ここまで毎回メリーちゃんの伸ばした手を無視する田中に対し、私は「なぜ?」と気になってしまいました。

そんな感じで少しだけ2人のことを気にしながら食事をしていると、決定的に「あ、田中わざとやってるんだ!」と思う場面があったのです。

それは私が玉子焼きを食べた時の事。

その店の玉子焼きがすごく美味しかったんで、私、思わずわりと大きめな声で「うわーおいひー」と言っちゃったんですね。

そしたら、メリーちゃんがそれに反応してチラ見されて、たぶんメリーちゃんも玉子を食べたくなったんだと思うんですよ。

そこにちょうど田中が「次、どれ?」とメリーちゃんにメニューを見せてきたんですけど、玉子ってたいてい寿司ネタで一番安いじゃないですか。

だからメリーちゃんも裏面になってる安ネタのページを見ようとして、かつてない力強さでメニューを掴もうとしたんですね。

そしたら田中、グッと自分のほうにメニューを引き寄せてメリーちゃんにメニューを渡さないんですよ!

その瞬間、メリ―ちゃんと私、多分同じこと思いましたよね。

「なぜだ、田中!?」

しかしメリーちゃん、ここで初めて我を貫きました。

再度メニューに手を伸ばしながら「あの、玉子が…」と「玉子が食べたい意志」を口に出したんです。

しかしそれに対してなんと田中はフッと笑って「遠慮しないで、ここから選びなよ」と言い、メニューをメリーちゃんから死守したのです!

またもメリーちゃんと私の心はシンクロしてたと思います。

「なんなんだ田中!?」

それでもメリーちゃんは大人しい性格なのか、奢られる事が決まっていてその引け目なのか「あ、はい…」と玉子を諦め、他のものを注文していました。

 

この光景を見た時、私はふと自分の過去の記憶が頭に浮かびました。

それは、若い頃に歯科助手をしていた時のことです。

私の勤めていた歯科医院は基本、院長(30代男性)とその奥様(20代女性)と私、の3人しかスタッフが居なかったのですが、院長夫妻は私の事をとても可愛がって下さり、3ヶ月に一回くらい良い御飯に連れてってくれました。

その時、いつも「なんでも好きなの頼みなよ」状態だったのですが、院長は「好きなの頼みなよ」と言いつつ、実際は私が好きなものを頼むことが出来なかったんですよ。

なぜかというと、院長は高いものしか頼まさせてくれなかったんです。

何かのコースで「松・竹・梅」と3段階あるとしますよね。私が「梅か竹がいいな~」と思いながらそのあたりのメニュー詳細を見てると、院長が「なーに遠慮してんの!松にしなさい!」とニッコ二コで言ってきます。

そしてその笑顔からは、なにか無言の圧力を感じます。

まぁ「上司ってそういうものだよな」ですし、奢ってもらう人が奢ってくれる人の「気分を接待する」っていうのは大人のマナーかなと思っているので、もう「奢られる前提」で一緒に店に行ってる限り、私は院長に従ってたんですよね。

私が「へへ、じゃあ松でお願いします。」と言うと「そうそう、初めからそう言いなさい^^」と満足気な院長。

こうした場面を振り返ると、院長達との食事は、表面的には「今日は日頃の慰労もかねて美味しいものを食べて親睦を深めよう」という建前がありつつも、水面下には「私の食事代」と「院長の満足感」の交換会みたいな部分があったんだな、と思います。

でも、こういうのは仕事関係の相手となら、避けて通れない道だとは思いますし、私も沢山ご馳走されて良い目を見てますから、別にいいんです。

ただ、プライベートな男女関係で食事をしている時にそういった部分があると、私はゾワっとしてしまいます。

なんで、ゾワっとするかという説明に、田中とメリーちゃんの関係を使わせてもらいますね。(二人の考えが私の想像通りだったと仮定して)

ぶっちゃけ、田中がしているメリーちゃんへの「おもてなし」は、ズレてると思うんですよ。

田中はメリーちゃんに対して「好き」なのか「今夜キメたい」なのか、その両方かは分かりませんが、とにかくメリーちゃんにお寿司を奢ることで自分の好意を示す、おもてなし中なわけです。

「食事を奢る」というおもてなしは、好意と経済力が同時に示せるし、好きな人がなんか食べてる所を見るのは楽しいので、みんなよくやると思います。

私はそれ自体は別に悪いこととは思いませんが、田中がズレてるのは、その「奢る=おもてなし」のクオリティを高めることに集中するあまり、肝心の「メリーちゃんの意志」をないがしろにしているところです。

田中がその夜「高級寿司ネタだけを遠慮なく頼ませてあげる俺の経済力、気前の良さ、優しさでメリーちゃんをメロメロにしよう」といくら頑張ってたとしても、私がメリーちゃんの立場なら、感想は「玉子食わせろ」なんですよ。

「玉子が食べたい」というメリーちゃんの意志を鼻で笑い、メニューを渡さない田中。

つまり田中はメリーちゃんの意志より、自分の「メリーちゃんに高い寿司を食べさせたい意志」のほうを尊重しちゃってるんです。

田中は「今日はだいぶ良いものばかりご馳走したし、大人の魅力を見せられたな」と満足かもしれないけど、メリーちゃんが帰り道「玉子食べたかったなー」と思うかもしれないことに思い及ばない。

田中はそこがズレてると思う。

メリーちゃんが好きなら、メリーちゃんにメニューを渡すんだ田中!

メリーちゃんに選択の自由を!

あなたはメリーちゃんをもてなしてるつもりでも、それは自分の「メリーちゃんに気持ち良く奢りたい欲」を満たしてるだけなんだよ…!!

そこに気が付かない限り、メリーちゃんは心もお股も開かないよ…田中!

 

なんの話でしたっけ。

ああ、私がこういうのにゾワっとする理由ですよね。

それはたぶん私はこういう奢り方をする人からは「自分が道具にされてる感」を感じるからだと思います。

どういうことかと言うと、プライベートなのに、こういう時にもうひと押し「遠慮じゃなくて、素で玉子食べたいんでメニュー見せてくださいよ。」と言えない女の子って、多分「アレ」が怖いんだと思うんですよ。

「アレ」とは何かと言うと、昔飲み屋で働いてる時に何回か遭ったことがあるんですが、「金持ってます」な男性が「なんでも頼めやー」をしてきた時に、こっちが素で好きなメニューを言ったら「なんだそんな安いの頼んで!俺を馬鹿にしてるのか!?」って怒られるやつ。

過去に私は奢ってくれる男性が、こんな風に激高はしないまでも、ちょっとこれと同じ空気を出してくることが実体験としてありました。

仮にその男性をAさんとします。

私は牛肉より鶏が好きなので焼肉屋で鶏を多めに頼もうとしたら、Aさんは「もっと好きなの頼んでよ、なんか俺のこと貧乏だと思ってない?笑」(冗談ぽく言うのに目が笑ってない)と言うんです。Aさん以外にもこういう事を言われることは何回かありました。

私はコレに出くわす度「なんなんだろう、この思考回路」と思ってました。

院長の無言の圧力も、口に出して言わないだけでこれなんですよね。

食べ物を値段じゃなくて、料理の味として見てれば、安い食べ物が本気で欲しい時だってあるじゃないですか。

なのに「安いメニューを選ばれた→そんな金額しか出せない男だと思われてる?→俺を馬鹿にしてる!!?」って、なんでそう思うんでしょう。

せっかくAさんが「金額に制約なく今日は食事を楽しもう」の席を設けてくれたので、こちらはありがたく「じゃあ今日は二人で好きなものを楽しく食べましょう」の気持ちで挑んだんです。

それなのに実は「安いものを頼まれたら男が馬鹿にされてる気分になるからダメ」っていう制約が存在してて、しかもその制約は表立っておらず、マナーとしてあらかじめ奢られる女が踏まえていないといけない、っていう感じの圧力。

こういう人って「高いものを奢りたい」と思うなら、初めから「高いもの頼め」って言えばいいのに、それだと自分が下品っぽくなるから「好きなの頼め」って言うんだと思うんですが、でもその「好きなの」って、私の「好きなの」だから、私がどの値段の食べものが好きかはまだAさんは知らないんですよね。

Aさんが本当に私に好意があって「好きな食べ物知りたいな」みたいに私の中身に興味を持って「好きなの頼んで」と言ってくれているなら、私が鶏ばかり頼もうが「鶏のほうが好きなんだねー」で済むのが筋なのに、安いものを望んだら「みくびってない?」的なことを言われ「奢り甲斐ないなぁ」と残念がられたりする。(人によっては「馬鹿にするな」とまで言われる)

それって、結局「好きなもの食べさせたい」より、自分が『女に金使ってやったぜー』ていう気持ちになりたいがために「女に奢る」という手段を使ってるだけで、そんなの「私、道具じゃん」という感じがしちゃうんですよ。

私は自分が人間扱いされなかった時、それが一番ゾワッとなります。

100年の恋も醒める。そういう人とは恋愛できないと思う。

Aさんにとっては「好きなの頼め」って言われたら「えーじゃあ、ウニといくらと大トロ!Aさんと来なきゃ、私こんなお寿司食べられなかった~うれしー」っていう奢られ方が出来る女の子が理想だったのかもしれないけど、それは私が院長に提供してた「満足感」の交換会の時のやつだから、仕事関係みたいに「割り切った自分」にならない限り私はしたくなかった。

私は「恋愛に発展するかしないかの男女が一緒に食事をする意義」というのは、相手の好きな食べ物を互いに知ったり、食事の席で色んな話をして性格を知ったり、食べ方や店員への態度がどうだっていうのを目の当たりにしたりして「この人とやっていけるかな」と考える材料を「互いに入手するため」だと思うんですよ。

だから、そういう食事の時に「金額の制約は僕が外すから大いに2人で好きなもの食べて、新しい面を見せ合おう」という意味での「奢り」なら、すごく歓迎できることだけど、相手に貸しを作るつもりとか、奢ってあげる優越感が欲しいっていう思惑が潜んでいて、しかもそれが相手に見えちゃう「奢り」だったら、関係発展のためには逆効果だと思います。

田中とメリーちゃんの話なので、つい「男が女に奢る話」になってしまいましたが、男女が逆でももちろんそうですし。

田中とメリーちゃんは一見「これから」を感じさせるデート中の2人っぽかったのに、その制約、無言の圧力がガチガチに潜んでて、でもそれは「ないもの」としてデートが進行しているところが、少し奇妙に見えたので、頭に「1組の奇妙なカップル」と書いてしまいました。

ちなみに2人は最後、メリーちゃんがデザートを一つ選ぶのに「どれにしよう…」と楽しげに悩んでたら、田中は「悩んでないで、全部頼んじゃえばいいじゃん。」と言ってデザート5種全部を頼み、結局メリーちゃんは1皿しか食べず、田中が「もう無理」とか言いながら食べてました。なんか、ゲスい…。

食べきれないほどのデザートを見た時のメリーちゃんの引きつった笑顔と棒読みの「わーすごい」が忘れられません。

そういうとこだぞ、田中。

 

 

※メリーちゃんと田中はもしかしたら仕事関係の付き合いだったのかもしれませんが、事実はわからないので、全部私の妄想として書いてます。