兄がアル中になった。その2
兄の酒量が普通ではないと私が初めて感じたのは、5年前でした。
私は10年前に結婚と同時に夫の転勤で他県に引っ越していたのですが、その後5年ぶりの転勤で偶然にも故郷に戻ることになったのです。
恥ずかしながら私の母は典型的な片付けられない人間でして、もともと乱雑な家ではありましたが、5年ぶりにまじまじと見る実家は、実にエスカレートしたゴミ屋敷と化していて、私は故郷に戻るなり、これからは頻繁に実家の掃除に通うことを決めました。
何度目かの掃除で実家を訪れた際のこと、2階の両親の居住部分はわりとマシな状態になったので、兄は不在の昼間の時間帯でしたが、私は出来心で階下の兄の居住部分の様子も見てみることにしました。
戸を開けるとムワッと鼻に付くタバコの匂いと共に、おびただしい量の「いいちこ」の空き瓶と紙パックが目に入りました。
「空き瓶でボウリングが出来そうだな…」と思ったので、瓶を並べてみたら3レーン分くらいありました。
どれくらいの期間、ゴミ捨てをサボったらこれだけの空き瓶や空きパックが溜まるのかは分かりませんでしたが、私は希望的観測で、兄はずいぶん長いことゴミ捨てをサボっているのだと思うことにしました。
しかし、希望的観測は外れました。
それからわずか1週間後に私が兄の部屋を訪れた時、一瞬「デジャヴかな?」と思ったほど、似たような光景がありました。
前回より若干数は少ないものの、そこら中に散らばるカラのいいちこ。
私は思わず「いくないちこだよ!」と意味不明な叫びを上げていました。
それから兄の部屋を掃除して帰ると、夜に兄から「部屋が綺麗になってるよ〜!(^^)ニニちゃんが掃除してくれたんだってね!ありがちょ〜♪」みたいなメールが来ました。
私は酒量のことを聞こうかと少し思いましたが、なんとなくそのことを突っ込んで聞くのが怖く感じました。
なぜなら、そのことを聞くと、兄の人生の闇の部分に足を突っ込むことになる気がしたからです。
我が家は父も母も下戸で、親族にも特に酒が強い人が居たという話は聞いたことがありません。
兄も私が一緒に住んでいた頃(18年前まで)は、たまーに会社や友人との飲み会で飲んでくることはありましたが、日常的に飲酒する習慣は無い人でした。
ですから、根っからの酒好きではない我が家の人間が、今現在、毎日それだけの量のお酒を飲む生活をしているということは、そこになにか「酒に頼らざるを得ない事情」を抱えているという現状を私は察したのです。
根っからの酒好きではない人がお酒に溺れる毎日を送るということは、本人がお酒による酩酊状態を欲している、ということが伺えます。
つまり簡単に言えば、日常あれやこれやと考える自分の頭の動きを止めたいから、お酒を「思考停止する手段」として使っているということです。
それは言うなれば、兄がお酒による現実逃避をしながらでなければ、日々が送れない状態であるということを意味していて、その頃の私はそういう状態かもしれない兄にそこまで関わる気がありませんでした。
そのことと向き合うのが怖かったのもあるし、自分の生活でいっぱいいっぱいだったのもあるし、ここでは省きますが、他の理由もあります。
とにかくその時の私はとりあえず兄のメールに「いいよー、あんまりお酒飲みすぎないでね!」程度の返事をして、兄の酒量のことは気にしないようにしました。
今思えば、この頃から私ももっと兄とお酒の関係について向き合えば良かったというか、酒量が普通じゃないと思った時点で、家族として、そうなっている兄の心に親身に向き合う必要があったんじゃないかとも思います。
でも、兄の人生史を客観的に観ると、私は兄がこうなって当然の人間のような気もしています。
それは、兄には実にロクでもない人間な部分が多分にあるからです。
兄の名誉のため、あまり悪くは書きたくありませんが、私の兄は実にロクでもない男なんです…。
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つづきます。